カズオイシグロ、私を離さないで・感想

テストが終わり、早速念願のカズオイシグロ著の「私を離さないで」を読みました。
読み終わった感想はえー、って感じ。

がっつりネタバレするので読んでない方は気をつけてね。

臓器を提供するために作られたあるクローンの生涯を描いたお話です。

時代はおそらく未来、場所はイギリスで、幼少期の学校の寄宿生活ような場面で、主人公の物語は始まります。

最初の頃は彼らがクローンであり、臓器を提供するために生まれた、という事実は明かされていませんが、要所要所で「ん、これ変だぞ」って箇所が出てくるので、「ああ、この子供たちはおそらく臓器提供をするために集められた存在なんだな」とわかります。

その多くは彼らの保護者的立場にあり、また教師でもある「先生」と呼ばれる保護官の口から刷り込みのように伝えられます。

例えばそれは:
・子供たちに生殖機能がないということ
・子供たちにタバコは悪だとすりこむこと
・外も内も美しく、という言葉

などです。

特にわかりやすいのが、彼らの立場に同情しているルーシー先生の言動です。(彼女は非クローン)
彼女はおそらく現代に生きる私たちの価値観と最も近く、そのため私はものすごく感情移入しました。(しかも先生ブルドッグ似らしいよ)

印象に残っているのは、ある生徒が「俺はアメリカに行って映画俳優になるんだ」と夢を語っていたシーンです。彼に対してルーシー先生は「あなたは映画俳優にはなれないし、スーパーの店員にもなれない」という言葉を投げかけます。

規則と感情の板挟みになりながらも、ルーシー先生は「教えられているようで、教えられていない」ことの本意を生徒たちに伝えようとします。

その信号を主人公たちは受け取っているのですが、自分たちは「特別」な存在だと、小さい頃から刷り込みのように教わっており、臓器を「提供」することにもそれほどの衝撃を感じません。

彼らの世界では生きるということは、そういうものなんでしょう。
そして、その態度は彼らが大人になり、実際に「提供」が始まる時になっても変わりません。

彼らは自分が死ななければならないことを嘆き、憤慨するのですが、そもそもの発端となっているシステム自体に反旗を翻そうという思考を持ちません。

私は主人公たち「提供者」の目線で物語を読んでいたので、このやるせなさにとてもイライラしました。

彼らは自分たちが家畜のように扱われることに疑問を持たないし、世界は実際、彼らを家畜のように扱っているのです。

それは終盤になって出てくる元施設長のキャシー先生との対話でも現れます。

主人公たちの暮らした施設は、他と比べても人道的であるということ、「あなたたちは恵まれている」。

そんな風にキャシー先生は語りますが、それはあくまで「家畜」として恵まれているということであって、自由意志を持った人間として恵まれているというわけではありません。

キャシー先生は、主人公たちクローンのために力を尽くした、と言いますが、それは彼らが臓器を提供するまでの時間をいかに豊かにできるか、ということだけに尽くしたのです。

価値観が違いすぎて、ほんとにあんたの血は赤いのか!って感じです。赤いんでしょうけど。

でも、それは、私が今の人格を保有し、今までの人生経験があったからそう思うんですよね。
そうでなくても流されやすい性格なので、実際その立場になったらうっかり「提供」してしまうかもしれないし。

たぶん、これは見る側の「ウチとソト」、「上と下」の問題で。
提供される側の目線で見るなら、彼らはきっとなくてはならない存在でしょう。
誰だって生きたいと思うでしょうから。

私たちが食肉するのと同じ理由です。

彼らが人間だから命を奪ってはいけない、家畜にしてはいけない、というわけではないと思います。動物だって生きています。

だからこれは、どの立場にどれだけ感情移入をできるか、同情できるか、という、ただそれだけの問題なんじゃないでしょうか。

(微妙に似ている「サイコパス」では、常森監視官の目線で見ていますが、これはきっとそこが程度的に許せるからですw)

だから、思い切り「家畜」側に感情移入をした私は、彼らとは違う価値観を持っているので、ただただイライラしました。

だけど、この物語をとってもうつくしいなあ、と思ったのもまた事実です。

人間関係の移り変わり、人の性格の描写、どれをとってもわかりやすく、どこか流れていくようです。(超上から)

きっと、日本語訳がよかったのもあるんじゃないかなあ。

子供の目線で見た教師。
親友との距離感。
いじめられている子に対する感情。

子供ってこんな感じだよなあ、って同感するようなリアルさでした。
提供する時の人の感情もリアルでした。

施設出所後には、制限されててもある程度の自由は与えられていて、そこを青年期・中年期としてみれば、提供する時期を老年に差し掛かったと考えられなくもなく、人生の山や谷をきっちりこなしているようにも思えるのですが。

それでも。

生の短い若者の人生がテーマなら、もういっそクローンの部分を抜かして欲しかったです。そこがひたすら重い。

最後にはみんな死んでいくんだもんね。
ルーシー先生の言葉を小さい頃から聞いていたくせに、残念です。

いっそ生まれた時に、感情を司る機能をすべて取り除いてしまえばいいのにって思った作品でした。

私はされたくありませんが。

紀伊国屋書店


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